講座テーマ「生きた台詞、生きた演技を追う③」
(1) 作られた役、作られたセリフを生き生きしたものにするため、俳優は?
・リアルな生活は常に不安定。そのためいつも安定させたい心のベクトルを
持っている。
→生々しさ(生命現象)は常に不安で不安定。未来には全や楽を希求する
心を持つ。
・台本=過去(以前)に書かれた、これからの出来事。しかもその時その時の
“こうある”という結論、もしくは結果が示されている。整理され、文字化され
ている。
・自然な喋り=台本がなく、脈絡がなく、思い付きで、音声はメチャクチャで発
散型が(生活上の) 多く、口調や言い型が重要→文字化出来ない。
・台詞:死んでも、生きてもないもの。これから起こるべき“今”を整理して書か
れたもの。予定調和 ※予定調和は生き生きしてない。
〈台詞のルール〉:文字化され決められた筋や情態や状況の中で、まるで
ルールのない自然な喋りで生き活としているような“嘘”を
つく。
〈リアルタイムの生〉:台本がなく、次や先が決まっておらず、常に不安、不安
定で負の状態である。そこで安心や安定を仮定し、心の
正へのベクトルを持たせ、負と正の間を往き来している。
このエネルギーのゆれが正に生である。
◎生き生きとした台詞のヒント / 相手役をどのように解釈して、対応してゆ
くか。
・今、今の嘘をつけなければいけない(正に向けたウソの希望)
・悪の道は良い。捕まるという不安にいつも“おびえている”“心がゆれている”
悪事と知らずにやる悪事は、心のゆれ(恐れ)がない。知ってやる悪は心が
ゆれている。
ドキドキ(負を実感し、正へ向かおうとする心の振動)を全身で感じている。
生きている。
・バレないようにする:完全犯罪
⇔バレないこと
◎リアリティを一番感じる、生き生きとしているのは“悪事を働いている時では
?”
「悪の瀬戸際のドキドキ」これを代理人にバーチャルでやらせているのが
“ミステリー”。
実害がないので、バーチャルでドキドキ(生の刺激)をやっている。
(2) 相手役との関係
・相手を思いきり客体化し、突き放し、観察し、相手のことに参加する。
・「嘘」で言うと:自分―役、相手―役の4者が嘘をつきあっている。
各々が欺き探り合う緊張感は、より一層のドキドキ感を作る。
・少なくとも、ストーリー通りの慣れあいにどれだけ魂の振動を作れるかが重要。
◎役者は完全犯罪を狙わなければいけない。
・悪党でなければ、芝居ができないわけではないが、善良な人では芝居にな
りにくい。人間を良いとこ取りするとイヤラシイ。善を基盤もしくは前提に
人を理解されると、ウソッポイ。
◎俳優の人間理解の根底は、“人は善でも悪でもなく、ニュートラル”に置き
たい。少なくとも様々な人を演じる私は、“ニュートラルな心”の苦しみを
引き受ける勇気が必要。
◎台詞だけではなく、身振りで「完全犯罪(日常的自然)」をする。
・身振りの1つに声がある。声が正であり、負である。
・自分を安定情態においたら、台詞は言えない。ヤバさに燃えるドキドキに身
をおくのが第一条件ではなかろうか?
・安定は危険の上に乗っている。安心は不安のお陰で存在する。
◆本日の磯貝語録
・俳優の人間理解の根底は「人の心は善」「人の心は悪」でもなく、ニュート
ラルの心に置きたい。初めから色があってはダメだ。
・“予定調和”の台本を不予定未調和にするのが、俳優の仕事(面白い芝居
のために)
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